━━今回のご相談は、「朝起きてすぐにイライラしてしまいます。寝起きが最悪の氣分です。」という方です。
志保先生:はい。何か嫌なことがあったのでしょうかねぇ?(笑)
このイライラという状態は、「肝(かん)」の生理機能に関係します。漢方でいう「肝」というものは、血液を介して体をコントロールする働きがあるのですが、イライラの状態を説明するのに、少し「肝」の説明をさせて下さい。
中医学でいう「肝(かん)」の生理機能の一つに「肝は血を蔵す」ということばがあるように、肝臓は体内の血液の貯蔵庫だと考えられています。
そして、「肝」で貯蔵する血液を肝血といいますが、イライラ、うつうつしないためには、肝臓にたっぷりと血液が必要になります。
漢字が違うのですが、「疳の虫(かんのむし)」という言葉がありますね。この疳の虫は、肝臓の肝と書いてもよいくらい、肝臓に血液が無いとイライラしやすいように思います。
肝臓の氣の滞り
━━そうなんですね。
志保先生:そしてもう1つ、「肝は疏泄(そせつ)をつかさどる」という言葉があるのですが、「疏泄(そせつ)」とは、肝臓の新陳代謝による消化吸収や、血流調整、頭の回転など体の中のバランスの調節のことを言います。
肝の血液は、トラックで運搬するように、栄養物を身体のすみずみまで運ぶことで、新陳代謝をコントロールしています。きれいな血液も運びますが、このトラックは悪い物も運んで流してくれますので、体の中にごみが溜まりにくくなって、脳の働きも活発になり情緒が安定します。これを疏泄作用(そせつさよう)と呼んでいます。
そして、この作用が滞ってしまうと「瘀血(おけつ)」といって血液が滞り、さらには「肝氣鬱結(かんきうっけつ)」と言いますが、肝の氣が滞る状態に陥ります。
イライラする方はほとんどの場合、ストレス等により肝の氣の流体が滞り、肝氣鬱結(かんきうっけつ)状態になっています。すると、イライラしたり、うつうつしたり、胸脇苦満(きょうきょうくまん)といって胸の下が張ってみたり、女性であれば月経が不調になったり、お腹にガスが溜まって下腹部が痛いなどの状態が起こります。
理由もなくイライラするという方は…
━━イライラが、「肝」と深く関わっているのですね。
志保先生:はい。ですから、何か嫌なことがあってイライラするのではなく、何だか理由もなくイライラするといような方は、もしかすると、肝臓の血液が足りない上に、肝氣鬱結(かんきうっけつ)し、氣が血液と一緒に流れていないことによってイライラしている可能性がありますね。
━━イライラは、ふつうは感情のコントロールの問題のように思われそうです。漢方を知らなければ、肝臓や血液の流れに関係があるとは考えないかもしれませんね。
志保先生:そうですね。この人は怒りっぽいなどと思われて終わっているかもしれません。
でも、漢方を実際に飲むと「あのイライラはどこにいってしまったのか?」などと言われる方がいらっしゃいます。
肝氣鬱結(かんきうっけつ)の場合には、疎肝作用(そかんさよう)というのですが、氣を巡らせるような漢方を飲む日と飲まない日で、子供に対する怒り方が違うなどということもあります。なので、私も大好きな漢方なんです。本当にイライラがスッキリしますよ。
━━では、「寝起きが最悪の氣分」という訴えについてはいかがでしょうか?
志保先生:寝起きが最悪ということは、もしかしたら漢方で言う「血虚(けっきょ)」かもしれません。この「血虚(けっきょ)」の状態の方は、血液が少ない方が多いです。
血液と氣は密接な働きをして体のすみずみまで流れていますので、血液が少ないと、細い小川に血液がチョロチョロと流れている状態ですから、氣が一緒になって流れない状態ですね。そうすると、そこで血液も氣も滞って、イライラした状態になるということが考えられます。
低血圧の方もこの状態が考えられますよ。
━━なるほど。
志保先生:あと1つ、イライラの原因としてカルシウム不足も考えられます。骨や歯の中に多くのカルシウムが含まれますが、神経の中にもカルシウムが含まれます。神経の中にカルシウム不足を生じるとイライラすることが考えられます。
カルシウムが少なくなることの原因として、甘い物の食べ過ぎや、ややお年を召した女性は体の中のバランスを崩してしまうことがありますので、そのせいでイライラしているのかもしれません。そのような場合、漢方薬の中にもカルシウムを補うものがあります。
これには抗ストレス作用や鎮静作用といって、氣持ちを落ち着かせてくる作用がありますので、そのようなカルシウムを補充することでイライラが解消されたという方もいらっしゃいます。
━━年齢的なことや、甘い物の食べ過ぎでカルシウムが減っている可能性も考えるべきなのですね。
志保先生:そうですね。時間をかけたご相談によって、ご自身の生活を振り返ってみて初めて分かることも出てきますね。
イライラは、ただ氣持ちの問題や性格が怒りっぽいということではないかもしれませんよ。