━━今回は「抗うつ剤を飲んでいて眠れなくて、余計に辛いです」というご相談です。
志保先生:基本、抗うつ剤というのは眠気という副作用があるので、ご相談の方は珍しいタイプだと思います。
まずは、抗うつ剤を飲んで昼間に寝ていないかどうかですね。抗うつ剤を朝飲んで頭がぼーっとして眠い状態で、昼間うつらうつら眠って過ごしてしまうと、逆に夜に目が覚めてしまったりすることもあると思います。
以前、抗うつ剤で眠くなり復職できないというご相談がありましたね。その時にもお話しましたが、抗うつ剤を飲んでそのような状態になったのであれば、それはやはり抗うつ剤の副作用ですので、抗うつ剤を止めることが一番の解決の近道だと思います。止め方には注意が必要ですが。
━━薬の副作用かもしれないのですね?
志保先生:そうですね。それで、もし薬を止めたとしても、薬が体内に残っていて夜に目が覚めてしまう場合は、流れに働きかける漢方もあります。それと合わせて眠れない方に合わせた漢方をお飲みになったら、朝晩のバランスが次第にとれてくるようになると思います。
眠れないという悩みに対応する薬
━━漢方には「眠れない」という悩みに対応する薬もあるのですね。
志保先生:はい。あります。眠りのお悩みには大きく分けて3つのタイプがあります。
1つは、「虚証(きょしょう)」といって、体の血液が足りていなくて眠れなくなってしまうタイプです。このタイプは、どちらかというと胃腸が弱いために、食べたものが胃腸で吸収されなくて、血液になりきれず、心臓にたっぷり血液が無くて眠れなくなってしまうタイプですね。特徴としては、食欲が無い、ちょっと軟便気味、顔色が青白いなどがタイプになります。
さらに虚証(きょしょう)の眠りのお悩みの中に、「陰虚(いんきょ)」といって、臓器を潤わせる液が無いために眠れなくなる人がいます。ストレスが多く氣も血液も消耗し過ぎると陰虚(いんきょ)という状態になります。
この陰虚による眠りのお悩みは、「陰液(いんえき)」という臓器を潤わせる液が少ないわけですから、例えると、体の中が、お鍋に火を焚いて水分が蒸発したような状態になり、手足が火照るなどのほてりがあるのが特徴で、更年にさしかかる頃によくあるような状態かもしれません。
このタイプは手足が火照り、布団の外に放り出して寝ていたいとか、口が渇くだとか、不安感や動悸などが表れることがあります。そのような場合には、「補陰(ほいん)」といって体を潤わせながらこれらのお悩みに対応する漢方薬があります。
━━体を潤すことで眠りのお悩みに対応するのですか。
志保先生:はい、そうなんです。
そして2つ目が、「実証(じっしょう)」といって、エネルギーがあり余って眠れなくなるタイプです。以前イライラのご相談でもお話しましたが、気が滞ってイライラする「肝気鬱結(かんきうっけつ)」タイプ、「いつまでもあの事が忘れられない」というようなタイプです。
このようなタイプの人は怒りっぽいのが特徴です。このような時には、「疎肝(そかん)」といって、氣を巡らせるような漢方薬をお出しします。
━━今の2つは眠りの悩みがまるで違いますね。
志保先生:はい。そして、3つ目の眠りのお悩みのタイプ。これはめまいのご相談の時にお話しましたが、「痰湿(たんしつ)」といって、肝気鬱結(かんきうっけつ)にさらにストレスが関わって、ドロッとしたものが体の中に溜まってしまうタイプです。このタイプは、不安感があったり、よく夢を見るというのが特徴です。
漢方では舌診(ぜっしん)といって舌で状態を見る方法があるのですが、口から肛門まで1つのつながった粘膜ですから、舌の状態は体の中の状態を表します。
この痰湿(たんしつ)タイプの人は、舌にべっとりと分厚いコケがついています。こうなると痰というものが血管壁にこびり付きますから、体が重怠かったり、何となくまぶたが重かったり、夜に良く眠れない、夢をよく見るというような特徴があります。そのような場合は、通りを補うような漢方をお出しします。
━━漢方では、その方の状態、タイプによって眠りの悩みへの対応がいろいろあるのですね。
志保先生:そうですね。抗うつ剤を飲んでいて眠れないという場合に、抗うつ剤の治療を止めたくなくても、それを続けながら漢方でサポートはできますので、ご相談されると良いと思います。